データをどう解釈するか?
材料データをどう解釈するか
古くは大本営発表、近くは (敵の非道な行いで)油まみれになった鵜や、子供を虐殺された若い女性や、邪悪な兵器の存在等々、政治の世界でガセネタがタレ流されるのは日常茶飯ですから、眉に唾を付けて受取る人は多いのですが、そういう方々でも、科学的「データ」に対しては結構、思考停止して、批判精神が塩漬けになっているようです。
科学者、技術者だからといって、他分野の人より善良で正直で利口である、という保証は(全然)ありません。
どういう意図で、どんなやり方でデータをとったのか、データを結論に結びつける論旨に欠陥が無いのか、きちんと点検しないと、「データでだまされる」破目に陥ります。
科学者、技術者だからといって、他分野の人より善良で正直で利口である、という保証は(全然)ありません。
どういう意図で、どんなやり方でデータをとったのか、データを結論に結びつける論旨に欠陥が無いのか、きちんと点検しないと、「データでだまされる」破目に陥ります。
(話は変りますが、 碁や将棋では、“ハメ手に一番引っかかり易いのは、ヘボより少し強い初段2段クラス”だそうです。 “何の関係があるんだ?”と言われると困りますが・・)
【その1】
定められたやり方に従って、あの試験に簡単に合格する方法と簡単に不合格になる方法があります。公開します。(つまり、試験規格に、大事な事が抜けていると言うことです。)
とりあえず、知らない人のために、試験法をザッと説明しましょう。
《エポキシ樹脂塗料の主剤と硬化剤を混ぜて、ガラス板に塗り、室内に放置して硬化させてから、飲料水に浸漬し、その水を分析し、指定の有害物質の溶出量が規制値以下になっているかどうかを調べる。》 というやり方です。
とりあえず、知らない人のために、試験法をザッと説明しましょう。
《エポキシ樹脂塗料の主剤と硬化剤を混ぜて、ガラス板に塗り、室内に放置して硬化させてから、飲料水に浸漬し、その水を分析し、指定の有害物質の溶出量が規制値以下になっているかどうかを調べる。》 というやり方です。
本論に入ります。
『簡単合格法』
容器の中で、主剤と硬化剤を混ぜます。(ここまでは誰がやっても同じ。ここから裏技)すぐにガラスに塗らないで、そのまましばらく放置します。(反応熱で温度が上がってきます。)そして、固まる寸前にガラス板を容器に突っ込み、ディッピング法で塗布します。
これで、OK。・・・よっぽどひどい材料で無い限り、必ず合格します。
容器の中で、主剤と硬化剤を混ぜます。(ここまでは誰がやっても同じ。ここから裏技)すぐにガラスに塗らないで、そのまましばらく放置します。(反応熱で温度が上がってきます。)そして、固まる寸前にガラス板を容器に突っ込み、ディッピング法で塗布します。
これで、OK。・・・よっぽどひどい材料で無い限り、必ず合格します。
なぜ、そうなるか。・・・エポキシ樹脂の項で説明したように、一般塗料に使うエポキシ樹脂の硬化剤はアミン類で、一分子中に複数のアミノ基を持っています。アミノ基には、
-NH2(一級アミンといいます)-NH(二級アミンといいます) |
| -N(三級アミンといいます)
|
の三種があり、エポキシ基と反応するのは、一級と二級のアミンだけです。
(一級アミンの水素が一個エポキシと反応すると、その時点で二級アミンに変わります。
三級アミンは、触媒的働きをします。)
形式的なことを言えば、-Nにくっついた水素の数だけエポキシ基と反応できますが、現実問題として、立体障害や、相互位置の影響、その他いろいろな要因により、個々の水素の反応性は全部異なります。反応できない水素もたくさん出てきます。
そこで、実用上は反応の早いものだけカウントして、これを活性水素と名付け、あとを無視してしまいます。(その数で分子量を割ったのが活性水素当量です。現実の配合比はこれで計算します。)
さて、この活性水素にも、非常に反応が早い水素とそうでない水素があります。エポキシ樹脂と混ぜると、当然ながら反応が早い水素から先に反応していきます。(通常、それは分子末端に近い位置の一級アミンの水素です。)
ここで、エポキシ樹脂特有のやっかいな問題が生じます。
空気中の炭酸ガスがやはり、その(早い)水素と反応するのです。 おまけに、その反応は、中和反応ですから、エポキシ基との反応より早く進みます。 (低温になればなるほど、その反応速度の差は、大きくなります。)
それで、塗膜の表面は炭酸ガスに食われた分だけ、アミンが足りなくなるわけで、それによって硬化が不完全になります。 (もちろん、それは見た目で判断できるほどのレベルではありませんが、きびしい溶出試験では、これがバッチリ検出されてしまいます。)
公開した簡単合格法というのは、この反応初期の最も炭酸ガスと反応しやすい期間を(空気にさらさずに)やり過ごし、それが終了してから(つまり、活性の高い水素がエポキシ樹脂と反応し終わってから)塗布して空気にさらすというだけのことです。
その逆をすれば不合格になります。 つまり、硬化剤を混ぜたら、すぐに塗布しできるだけ低温でゆっくり固める。 結露するくらい湿度が高い時に塗る。石油ストーブ等を使って炭酸ガス濃度を高めて塗る・・等です。
-NH2(一級アミンといいます)-NH(二級アミンといいます) |
| -N(三級アミンといいます)
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の三種があり、エポキシ基と反応するのは、一級と二級のアミンだけです。
(一級アミンの水素が一個エポキシと反応すると、その時点で二級アミンに変わります。
三級アミンは、触媒的働きをします。)
形式的なことを言えば、-Nにくっついた水素の数だけエポキシ基と反応できますが、現実問題として、立体障害や、相互位置の影響、その他いろいろな要因により、個々の水素の反応性は全部異なります。反応できない水素もたくさん出てきます。
そこで、実用上は反応の早いものだけカウントして、これを活性水素と名付け、あとを無視してしまいます。(その数で分子量を割ったのが活性水素当量です。現実の配合比はこれで計算します。)
さて、この活性水素にも、非常に反応が早い水素とそうでない水素があります。エポキシ樹脂と混ぜると、当然ながら反応が早い水素から先に反応していきます。(通常、それは分子末端に近い位置の一級アミンの水素です。)
ここで、エポキシ樹脂特有のやっかいな問題が生じます。
空気中の炭酸ガスがやはり、その(早い)水素と反応するのです。 おまけに、その反応は、中和反応ですから、エポキシ基との反応より早く進みます。 (低温になればなるほど、その反応速度の差は、大きくなります。)
それで、塗膜の表面は炭酸ガスに食われた分だけ、アミンが足りなくなるわけで、それによって硬化が不完全になります。 (もちろん、それは見た目で判断できるほどのレベルではありませんが、きびしい溶出試験では、これがバッチリ検出されてしまいます。)
公開した簡単合格法というのは、この反応初期の最も炭酸ガスと反応しやすい期間を(空気にさらさずに)やり過ごし、それが終了してから(つまり、活性の高い水素がエポキシ樹脂と反応し終わってから)塗布して空気にさらすというだけのことです。
その逆をすれば不合格になります。 つまり、硬化剤を混ぜたら、すぐに塗布しできるだけ低温でゆっくり固める。 結露するくらい湿度が高い時に塗る。石油ストーブ等を使って炭酸ガス濃度を高めて塗る・・等です。
以上で、技術的説明は終りです。
つまり、試験の合格証があっても、現実にできあがった塗膜の表面物性が、試験に合格する保証にはならない。・・・ということであり、逆に、合格証がなくても、現実には合格する塗膜になっているかもしれないということです。
現規格は、趣旨として、施工塗膜の表面物性を問題にしていながら、その表面物性を左右する”初期反応期間をどう取り扱うか”という問題が、そっくり抜けていますので、そういう事が起こります
【その2】
“飲料水にエポキシ塗料は本質的に危険だ”という過激なデータが出た事があります。
エポキシ樹脂と硬化剤を混ぜ、(固まる前に!)水を加えてかき混ぜ、「その水から有害成分が検出された!」という発表でした。(?!?!?)
この実験データから結論出来るのは、「特定のエポキシ樹脂に関しては、それが固まらないうちに通水すると、有害物が溶出する可能性が有る。」・・・ということだけです。
(現実に水に触れる)硬化した樹脂や、別種のエポキシ樹脂に関しては、どんな結論も言えません。
いわば、畑で抜いた大根をそのまま水に放り込み、その水から泥が検出された! とか、バクテリアがいた! と言っているような“データ”なんですが、言う人の肩書きが立派なら、“偉い先生が野菜は危ないといっている”という結論?だけが一人歩きします。
この実験データから結論出来るのは、「特定のエポキシ樹脂に関しては、それが固まらないうちに通水すると、有害物が溶出する可能性が有る。」・・・ということだけです。
(現実に水に触れる)硬化した樹脂や、別種のエポキシ樹脂に関しては、どんな結論も言えません。
いわば、畑で抜いた大根をそのまま水に放り込み、その水から泥が検出された! とか、バクテリアがいた! と言っているような“データ”なんですが、言う人の肩書きが立派なら、“偉い先生が野菜は危ないといっている”という結論?だけが一人歩きします。
(立論の出発点が異なる場合は、互にそこを把握しないで議論すると、ただのケンカになるのがオチですから、)こういう状況では(立場が弱い)メーカー側は、悪者にされてフクロ叩きになるのを恐れて、一人では反論しません。
そして取敢えず、誤解、曲解されそうな微妙な情報は隠すようになってしまいます。
(最悪、誤魔化すように・・)
データ解釈をプロパガンダの道具にして、根っこのところの相互信頼関係までぶち壊したら、まともな対話は成り立ちません。
狭い御町内で相互不信の悪循環がエスカレートするだけです。 不幸な事です。
そして取敢えず、誤解、曲解されそうな微妙な情報は隠すようになってしまいます。
(最悪、誤魔化すように・・)
データ解釈をプロパガンダの道具にして、根っこのところの相互信頼関係までぶち壊したら、まともな対話は成り立ちません。
狭い御町内で相互不信の悪循環がエスカレートするだけです。 不幸な事です。
【その3】
耐蝕データ
のようなスタイルもあります。
塩酸10% ○ というような○×スタイルもあります。
海水 ○
石鹸水 ○
ガソリン ○
トルエン ○
海水 ○
石鹸水 ○
ガソリン ○
トルエン ○
なお、言うまでもないことですが、これは、“材料が(この条件に)耐える”ということであり、“塗膜が耐える”ということではありません。
(材料の耐食性は、塗膜の耐久性を構成する要素の one of them でしかありません。)
(お勉強1 参照・・・ちなみに塩水噴霧試験は塗膜が耐えるかどうかの試験です。)
(材料の耐食性は、塗膜の耐久性を構成する要素の one of them でしかありません。)
(お勉強1 参照・・・ちなみに塩水噴霧試験は塗膜が耐えるかどうかの試験です。)
そして、実は、この耐蝕評価の仕方は、統一されたものではありません。
つまり、各メーカーが自分のやり方で勝手に評価したものですから、“どういう試験片をつくりどういうテスト法でどんな評価の仕方をしたのか”きちんと確認して利用する必要があります。 例えば、一日だけ、液に漬けて、見た目で判断したのか、一年漬けて、硬度検査をしたのか、等などです。
フィルムキュアしてアフターキュアしたような試験サンプルの結果を、そのまま現場施工のデータとして利用することはできません。
それやこれやで、試験法やデータ解釈が実情に合っているかどうか“自前で再チェックをかける”事も 時には必要です。 それによって、各メーカーの表記の仕方の癖(現実より良く表記してあるか、安全率を見て表現してあるか等)も分ります。
個人的に言えば、 ウソ表示も何度か経験しました。 例えば、アセトンにOKと記してあったパッチキット材料が、実際浸漬してみたら、10分で膨潤してしまったというケースがあります。
(10秒なら大丈夫だったので、その意味ではウソとは言えないのかもしれませんが・・・)
つまり、各メーカーが自分のやり方で勝手に評価したものですから、“どういう試験片をつくりどういうテスト法でどんな評価の仕方をしたのか”きちんと確認して利用する必要があります。 例えば、一日だけ、液に漬けて、見た目で判断したのか、一年漬けて、硬度検査をしたのか、等などです。
フィルムキュアしてアフターキュアしたような試験サンプルの結果を、そのまま現場施工のデータとして利用することはできません。
それやこれやで、試験法やデータ解釈が実情に合っているかどうか“自前で再チェックをかける”事も 時には必要です。 それによって、各メーカーの表記の仕方の癖(現実より良く表記してあるか、安全率を見て表現してあるか等)も分ります。
個人的に言えば、 ウソ表示も何度か経験しました。 例えば、アセトンにOKと記してあったパッチキット材料が、実際浸漬してみたら、10分で膨潤してしまったというケースがあります。
(10秒なら大丈夫だったので、その意味ではウソとは言えないのかもしれませんが・・・)
そういう意味で、苛性アルカリ、塩素系溶剤、ケトン類、アンモニア、有機酸、フッ酸、酸化剤等、曲者的材料がからむプラントは、時間があれば浸漬テストをお勧めします。(無論、信用ある業者が、”絶対大丈夫、必要なし”と断言したら、97%大丈夫です。)
【その4】
耐熱性
よく、“この材料の耐熱温度は何度ですか”と聞かれます。
が・・実は、耐熱性という漠然としたデータは有りません。
よく、“この材料の耐熱温度は何度ですか”と聞かれます。
が・・実は、耐熱性という漠然としたデータは有りません。
実際にあるのは、ある形状にしたものに一定の応力をかけて、温度を上げていったら何度で一定のたわみを生じるかという”熱変形温度”(HDT)や、空気中で温度を上げていったら、何度で材料劣化が始まるか、という”熱劣化温度”(ただし、これも時間がからむ現象であり、劣化の判断は、なかなか一筋縄でいかない)あるいは接着したものが、実用上何度まで持つかという”接着の耐熱性”等々、全て 具体的な検査項目と判定基準を決め、時間を設定してはじめてその小さな範囲の判断が下せる。・・・そういうものです。
0.1秒なら、たいていなんだって大丈夫です。
1.000年もつかどうかだったら、温度よりも温度変化の方が重要な要素かもしれません。
100℃の耐熱接着剤と言ったって、メチレンクロライドやアセトンの中に放り込んだら、たいてい常温でもやられます。
60℃の水に持つライニングと言ったって、それをタンク内にライニングし、外からジャケットで、冷却したら、大抵アッと言う間に剥れます。(用語4参照)
この様に、温度に関する現象は沢山あり、それらには温度以外のいろいろな事柄も関与します。
つまり(しつこいようですが、)そういう意味で耐熱性という言葉は具体的に、熱による何を問題にするのかという問題点と(当該の現象に関与する他の全ての)周辺条件を定めないと、 技術用語として意味をなしません。
だから漠然と、“耐熱性は何度ですか?”という問いに“90℃です。”と答えたとしても、これは“こんにゃく問答”でしかありません。
(互の言葉の意味が、相手に正しく伝わっている筈はありません。)
(互の言葉の意味が、相手に正しく伝わっている筈はありません。)
耐熱に限らず、耐蝕であれ、耐溶剤であれ、耐磨耗であれ、一般的に、耐~性というのは、“その条件及び、それ以外に共存する諸条件の中で、何を問題にしているのか、”という形で捉えないと、意味をなしません。